いわゆる正社員、契約社員といった分類は、法律用語ではないのですが、一般的には
- 正社員:期間の定めのない雇用契約
- 契約社員:有期雇用契約
というイメージだと思います。
正社員を解雇したり辞めさせるのは難しいけど、契約社員なら契約期間満了まで待てば雇用契約は終了でしょ・・・と、単純に割り切っていいのでしょうか。
実は、一定の場合には、解雇に準じて「契約更新をしないこと(雇止め)は無効」と判断されるケースがありえます。
具体的には
- 実質的に期間の定めのない契約と同視される場合
- 契約更新に対する合理的な期待が認められる場合
には、契約期間が満了しても形式的に契約終了とならず、解雇に関する法理が類推される(=合理的理由や社会的相当性がない限り、更新される)ことになっています。
とすると、「期間の定めのない契約と同視され」たり、「契約更新に対する合理的な期待が認められる」のはどのようなケースなのか、言い換えると
- どのような場合に「解雇に関する法理が類推」されるのか
- どのような場合に「期間満了だから形式的に契約終了」とできるのか
が重要なポイントになります。
少々、こみいった説明になってしまいましたが、流れを簡単なチャートにしましたので、ごらんください。
契約社員の雇止めは、この流れで考える!
雇止めをするときの判断は
裁判例は、
【第1ステップ:実質的に無期雇用と同視できるか、契約更新に対する合理的期待があるか】(解雇に関する法理が類推されるか?)
については、次の要素を総合的に検討して判断しています。
- 従事する業務が臨時的なものであるか
- 契約の更新回数や通算の契約期間
- 業務内容や責任・権限が、正社員と同じかどうか
- 契約更新ごとに、更新手続きがきちんと行われているか
- 契約更新を期待させるような言動がなされたか
- 過去に、同様の立場にある従業員が契約更新されてきたか
また、【実質的に無期雇用と同視できる、契約更新に対する合理的期待がある】と認められる場合には、次のステップとして
【第2ステップ:雇止めの合理性、社会的相当性】
を、解雇の場合に準じて判断しています。以下、詳しくご説明していきます。
第1ステップ:解雇に関する法理が類推されるか?の判断要素
業務が臨時的なものがどうか?
たとえば、会社がコンペに勝って、臨時の大型案件を受注し、その対応のためだけに契約社員を雇用したとします。そうすると、その大型案件が終われば、その契約社員の仕事は基本的には無くなってしまいます。
一方、経理や、主要商品の製造ライン作業などであれば、会社がある限りその業務がなくなることはありませんよね。こうした部署に配属された契約社員は、「きちんと仕事をしていれば、また契約を更新してくれるんじゃないかな」と期待しても無理はありません。
契約社員が従事する業務が、臨時的なものであれば形式的な期間満了が認められやすく、逆に恒常的なものであれば解雇に関する法理を類推する、という方向になりやすい要素の1つと言えます。
契約の更新回数、通算の雇用期間
たとえば、1年契約で雇用された契約社員が、1年、2年、3年と1年ごとに契約更新をされれば、「次も更新して雇ってくれるよね」と期待しやすいと考えられます。
また、3年契約を1度更新し、合計で6年間も働いていれば、同じように更新に対する期待は大きく膨らむものです。(契約期間が5年を超えれば、無期雇用への転換を請求することもできます)。
このように、何度か契約更新していたり、長期間働いてきたのに、いきなり「期間満了で雇止めね」と言われたら、その契約社員としては期待を裏切られたと思ってしまいます。
上記のような事情は、形式的に期間満了とするのではなく、その雇止めが合理的なものか、社会的に相当なものかという視点から雇止めの有効性を検討しよう、という方向(=解雇に関する法理を類推)になりやすい要素の1つです。
契約更新手続きが厳格にされているか?
契約社員の契約を更新するとき、皆さんの会社ではその都度、新しく雇用契約書を作成されているでしょうか?
契約書を交わしているとしても、たとえば、もともと1年契約であった契約社員について、1年を経過した後に「あ、忘れてたから、サインしといてね」などと、後付けで契約書を作成していないでしょうか?あるいは、「うち、自動更新だから」などと、契約書を交わす手続きを省いたりしていないでしょうか?
契約更新については、
期間満了前に人事評価や面談を行い、更新の雇用契約書を取り交わす
のが本来のステップです。
入社時に交わした雇用契約書には、「更新の有無」と、「更新がある場合はどのような要素に基づいて更新するか」が記載されているはずです。その条項に基づいて更新するかどうかを判断し、面談の席を設けるべきなのです。
この手続きがいい加減だと、「形式的には1年契約だけど、実質的には無期雇用だよね」と判断されやすい要素の1つになります。
契約更新を期待するような言動があったか?
上司から「最低でも3年はいてもらいたい」「また次回も更新するから、よろしくね」などという発言があれば、それを聞いた契約社員は当然、期待してしまいます。
このようなケースでいきなり雇止めとなると、解雇に準じて考える方向に流れやすくなります。
逆に、「3年以上は更新しないからね」「この臨時の業務のために採用したから、それが終わったらそれ以上は更新しないよ」などと、一定の期間で不更新とする旨の話をしていたり、契約書に不更新特約がある場合には、形式どおり、その期間満了で契約終了となりやすい要素の1つになります。
第2ステップ:雇止めの合理性、社会的相当性の判断
上に挙げたさまざまな要素を総合的に判断して、【実質的に無期雇用と同視できる、契約更新に対する合理的期待がある】と判断されると、次のステップとして、その雇止めが有効か?を検討することになります。
例えば、人事評価が他の契約社員に比べて著しく悪い、とか、何度注意しても改善されない、などの事情があって、それをきちんと立証できるのであれば、雇止めが有効とされる可能性もあるでしょう。一方で、たとえば5年間、契約社員で頑張ってきてくれた人を、無期雇用転換請求を防ぐために雇止めするようなケースは、基本的に合理性や相当性がないと判断されるでしょう。
雇止めの有効・無効の判断は、解雇の場合に準じて、裁判の結果を明確に見通すことができずリスクがあります。もし、解雇に関する法理が適用されるような契約社員について、どうしても期間満了をもって契約を終了させたい場合は、まずはその契約社員と話し合い、合意による契約終了を目指すことをお勧めします。
ただし、解雇権濫用法理が類推されるとはいっても、あくまで解雇と雇止めは違うものです。特に、経営上の理由(リストラしないと会社が倒産してしまう、など)からやむにやまれず整理解雇せざるを得ない状況の場合、正社員と契約社員のどちらを辞めさせようという判断になったら、契約社員を先に雇止めの対象にするのは合理的と判断される可能性もあります(あくまで、雇止めを回避しようとあらゆる手段を尽くした上での話です)。
契約社員の雇止めのまとめ
代表社労士の猪狩です。
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以上、契約社員の雇止めの流れについて説明してきました。
他の記事に比べて複雑な話だったと思いますが、ポイントは、
- 契約社員だからといって、一律、期間満了で辞めさせられる訳では無いこと
- 上のチャートのように2段階に分けて検討すること
- 解雇に関する法理が類推されるとなったら、強行せず合意による退職を目指すこと
だろうと思います。
当事務所では、過去の裁判例や相談例に基づく雇止めの有効性の検討、更新時の適切な手続きの実施などをサポートしています。顧問契約をしていただければ、タイムリーにご相談いただくことが可能です。